顔を描けない美大生の話(完結)
2021年8月3日
2021年8月7日
1 「今回の課題のテーマが何だったか、答えてもらえるかしら、宇和島みづきさん」 「人物画です」 「そのとおり。まじめなきみが間違えるはずはないよね」 「把握はしています」 「ではどうして、こうなったの」 「こう、と言いますと」 「顔がないじゃない」 私はしぶしぶ、見たくもないキャンバスに目を向ける。タイトルは『母』。文字通り、私の母の写真をもとに描き起こした人物画だ。 アルキド樹脂絵具で描かれた発色のいいネルシャツにまず目がいく。ペイルトーンの抽象的な背景も悪くない。だが、顔がない。目、鼻、口、耳、髪の一本さえ描かれていない。安価のマネキンみたいな楕円と、目鼻の位置…