うちのヤバい事情 case1 父・幹夫
2021年8月13日
2021年8月23日
プロローグ< 1 「おはようございます、磯野さん」 家族を見送ったあと、脱水の済んでいた洗濯物をベランダに干し、財布と鍵とエコバッグ二つとを掴んで家を出て鍵を閉めたところで、エレベーターホールへと続く廊下を挟んだ、隣の九〇二号室から出てきた鵜飼氏に、声をかけられた。 「おはようございます」と一礼を返す。 九〇二号室の間取りは三LDKだが、鵜飼氏の暮らしぶりを見るに、男の独り暮らしだった。かといって彼にお気楽な明るさは感じられず、どちらかというと暗く、疲れ、細り、乾き、摩擦で毛羽だった雑巾のような印象を受ける。五十代前半のはずだが、還暦を超えて見える。 「毎朝、…